国土交通省は、知的障害、精神障害のある人への交通バリアフリー化を進めるため、障害者本人や介助者、精神科医の人々を対象に公共交通を利用する際の課題の把握、それぞれの症状における望ましい対応方策等について調査を行うとともに、調査の結果を踏まえ、交通事業に従事する職員向けの応対マニュアルを作成した。今後、全国の公共交通事業者に配布する予定。
交通バリアフリー法の制定時には、知的障害のある人、精神障害のある人を交通バリアフリー法の対象とするかどうかについて議論があったが、こうした人々を対象とした交通バリアフリー化については、公共交通を利用するにあたって何がバリアーとなるのか、また、それに対して効果的な施設整備があるのか、周囲の協力が重要ではないのか、情報提供のあり方を工夫できないかなど、その対応方策の確定が困難であったため、交通バリアフリー法の直接の対象とはされなかった。
作成したマニュアル「「ゆっくり」「ていねいに」「くりかえし」−知的障害、精神障害のある利用者への応対−」は、知的障害のある人、精神障害のある人の基礎知識や、応対のポイントなどを障害者本人や専門家の人々の意見を参考にしながら、分かりやすくまとめたもの。
交通従事者に同マニュアルを活用してもらうことにより、知的障害のある人、精神障害のある人に関する基本的な知識と基本的な応対の技術を身に付けてもらい、公共輸送機関としての安全で快適な移動サービスの向上と、障害のある人をはじめとする多くの人のスムーズな外出、一層の移動円滑化に貢献することが期待されている。
また、マニュアルの基礎となった「知的障害・精神障害者の公共交通機関の利用に関する調査」では、当事者等のヒアリングによって得た知的障害・精神障害者の外出時の課題や要望を取りまとめ、対応策を考察した。
「知的障害者の公共交通機関の利用に関する調査」では、”外出時に見うけられること”として、「人の態度や言葉遣いに敏感で、言動が気になる場合がある」「情報量が多いと混乱する傾向がある」「コミュニケーション能力に障害があり、困ったことがあってもうまく意志を伝えられない場合がある」「職員および構内・車内アナウンスが早くて理解できない場合がある」「駅名等の表記については、記号で覚えるので、漢字で表された方が良い場合がある」「座席に座っている方が落ち着く」などが挙げられた。
”課題と考えられる改善・対応方法”としては、「利用者に分かりやすく使いやすい設備・システム設計が必要」「駅員に知的障害についての知識がない場合があり、自社の障害者割引制度の知識を身につけ、適切に応対することが必要」「利用者に安心感を与えるために、人的対応を拡充させる」「人的対応の際、ゆっくり優しく心のゆとりをもって、利用者の要件を聞く姿勢が必要。また、利用者にゆっくり、繰り返し伝えることが必要」などがある。
いっぽう、「精神障害者の公共交通機関の利用に関する調査」では、”外出時に見うけられること”として、「病気の種類、薬の服用状況によって症状が異なる」「ストレスに弱く、疲れやすく、頭痛、幻聴、幻覚が現れる人がいる」「新しいことを経験する際に、非常に緊張し、不安を感じる傾向がある」「ごく一部に、「不注意」「多動性」「衝動性」の行動特徴があり、車内で座席にずっと座っていられない場合がある」などが挙げられた。
”課題と考えられる改善・対応方法”としては、「統合失調症の人は、お腹が痛くなりやすいので、トイレの設置、案内が必要」「疲れやすい人が多いので、ベンチ、休憩所等を拡充する」「てんかんの発作が現れた場合、動かさず、必要に応じて薬の服用のための水を提供することが必要」「利用者の不安を取り除くために、ゆっくり、簡単、明瞭に、直接的に応対することが必要」などがある。
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