独立行政法人理化学研究所は、脳の老化に伴って生じる、GABA受容体を介した神経活動の抑制機構「GABA抑制」の異常な促進が、アルツハイマー病モデルマウスでは若年期で生じることを見いだした。さらに、モデルマウスにGABA受容体の阻害剤を投与したところ、アルツハイマー病による記憶障害が改善することを発見した。理研脳科学総合研究センターアルツハイマー病研究チームの高島明彦チームリーダー、吉池裕二研究員らと国立大学法人埼玉大学の古舘宏之助教との共同研究による成果。
アルツハイマー病の脳には、老人斑というβアミロイドタンパク質の凝集物が沈着する。遺伝性のアルツハイマー病患者では、βアミロイドの沈着や記憶障害がより若年期に起こる。いっぽう、大多数を占める非遺伝性のアルツハイマー病は、老年期に発症することから、脳の老化が最も大きな要因であるといえる。
研究チームは、βアミロイドと老化という2つの要因を別々に検討するため、若いβアミロイド過剰発現モデルマウスと老齢の野生型マウスの2種を、それぞれ若い野生型マウスと比較した。その結果、モデルマウスも老齢野生型マウスも、若い野生型マウスに比べて記憶能力が低下していることがわかった。
この記憶低下の原因を明らかにするため、記憶の形成をつかさどる海馬のシナプス可塑性について調べた。その結果、モデルマウスと老齢野生型マウスでは、GABA受容体を介した神経活動の抑制機構(GABA抑制)が異常に促進し、シナプス可塑性が低下していることがわかった。
そこで、モデルマウスにGABA受容体の阻害剤を投与したところ、記憶能力の低下が改善した。GABA受容体の阻害剤は、老齢マウスの記憶能力を向上させることがすでに知られている。これらのことから、GABA抑制の異常な促進によるシナプス可塑性の低下が、βアミロイドと老化による記憶障害の共通な発症機構であると考えられる。
今回の成果は、GABA抑制機構を含む、恒常性維持のための可塑性を制御し、神経ネットワーク異常を調整することで、記憶障害を改善する、新たなアルツハイマー病の治療戦略の可能性を示すこととなった。
同研究成果は、文部科学省特定領域研究「統合脳」の助成金を得て実施され、米国のオンライン科学雑誌「PLoSONE」に掲載された。
現在検討されているアルツハイマー病治療戦略には、タンパク質の異常凝集を阻害するような予防的なものや、ES細胞から誘導した新しい神経細胞で、失った細胞を補填するような提案があるが、今回の結果は、そうした方法以外に、薬剤によって神経ネットワークの異常を調整することで、記憶障害を改善できる可能性を示した。しかし、神経ネットワークの異常は、脳の複雑な補償機構の上に生じるため、さまざまな要因が集まって発症し、個人個人の病気の進行過程によって変化する可能性がある。
チームでは、今後は、神経ネットワークの異常が、病気の進行過程でどのような変化を起こしうるか、またそれぞれの過程で、どのような薬剤投与が異常を調整しうるかを検討し、治療法としてより現実的なものに近づけていきたいとしている。
了
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