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介護ジャーナリスト小山朝子の新介護論
連載/第三回 市民講座レポート(2)
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介護ジャーナリスト小山朝子の新介護論お金で買えないもの、あると思いますか?〜長崎・グループホーム火災から考える小規模施設の災害対策〜
介護保険制度が改正され、2006年4月から全面施行されました。
介護を社会で支えるという基盤は整ったものの、制度ではカバーできない問題も少なくなく、介護サービスの利用者や家族のニーズが汲み取られていない実情も感じます。
行政、介護を担う家族、在宅・医療機関・施設の現場で働く関係者、そして地域の住民やボランティアなどのインフォーマルな力が、ひとつの輪となって介護を支える社会をつくるために――。
このコーナーでは、「これからの介護」をみなさんとともに考えていきたいと思います。
耐震強度偽装の報道から

 耐震強度偽装のニュースが連日報道されています。建設業界の不信感が高まっているなか、先日見たニュース番組では事件によって失われた建設業界への安全性、信頼性を取り戻そうと努力するある中堅ゼネコンの動きを取材していました。この番組のなかで、中堅ゼネコンと発注者とのやりとりを撮していました。それは、以下のようなものでした。

 発注者は高齢者施設の建設を希望しており、「建設費用をできるだけ安く抑えたい」と言います。さらに「費用いかんによっては別の会社に見積もりを依頼する」ということを強い口調で発言していました。しかし、ゼネコン側は「安全性の確保という面からこれ以上費用を下げることはできない」ということを説明し、理解を求めていました。ここで私が印象に残ったのは、ゼネコンの対応よりもむしろ「少しでも安く」という高齢者施設側の姿勢です。もちろん、高齢者施設に限らず、発注側の多くは「なにはともあれ」コストを抑えたいという意識が強く働くことは理解できます。

 しかしながら、この発言をしたとき、おそらくこの発注者の脳裏には「お金」があり、入所者となる高齢者の顔は浮かんでいなかったのではないでしょうか。新しく建設されるこの施設への入所を待ち望んでいる高齢者がこの発言を聞いたら、どう感じたでしょうか。
 高齢者施設にとってなにより優先されるものは、高齢者一人ひとりの命です。安全性を二の次にして、もしこの発注元が建設を始めれば、災害が生じたとき、建設費用以上の大きな損失を生むことになります。災害が起きてから悔やんでも遅いのです。
小規模施設の非常災害対策を考える

 災害ということで記憶に新しいのは、長崎県大村市のグループホーム「やすらぎの里さくら館」で今年1月に発生した火災です。この火災では7人の高齢者が死亡しました。
 これを受け、厚生労働省では、2006年度からグループホームに仮眠を取らずに働く不寝番の夜勤職員を配置するよう義務づける方針を固めました。ちなみに、現行制度では、夜間は夜勤職員か宿直のいずれかを置くよう省令で定めています。

 しかし、人というソフト面だけでは、このような災害の対応や対策をカバーしきれないところもあります。さらに、ハード面での整備も重要な課題になってくるでしょう。
 この火災を受けて、総務省消防庁は、社会福祉施設の防火体制を強化するため、消防法施行令を見直す方針を固めています。スプリンクラーや火災報知機などの防火設備の設置を義務づける施設基準を引き下げ、小規模のグループホームなどにも適用を広げる方向です。
 ちなみにこの施行令では社会福祉施設について、床面積300平方メートル以上で火災報知機を、6000平方メートル以上(自力避難が困難な入所者が過半数なら1000平方メートル以上)でスプリンクラーの設置を義務づけるなどしています。しかし、小規模なグループホームなどの施設は対象外となっており、火災が起きたこのグループホームは床面積が約280平方メートルだったため、誘導灯や消火器の備えのみだったようです。さらに、グループホームの一部は消防法上、共同住宅の扱いで、火災報知機の義務づけは床面積500平方メートル以上と基準がさらに緩やかで、スプリンクラーについては事実上設置義務がありません。
 消防庁では、今回の火事を機に、これらの防火設備の設置を義務づける床面積の基準を引き下げる方向で見直しを検討しています。ただ、火災報知機やスプリンクラーは数百万〜1000万円程度の費用がかかり、設置の義務化は施設にとって大きな負担となることも拒めません。

 今回の介護保険改正で、地域密着型サービスが創設され、これからも地域に根ざした小規模多機能型居宅介護、グループホームなどの役割はますます大きなものとなっていくことが予想されます。しかしながら、今回の火災のような事故が起きたことで、小さな事業所ほど災害に対する備えが万全でないというイメージをもつ人も出てくるかもしれません。小規模施設の災害に対する対策はソフト、ハード双方の面から検討されていく必要があり、それが国レベルだけでなく、地域や事業所で考え、実践していくことが望まれます。
地域の住民と信頼関係を築く

 さらに、災害対策に際して重要となるのが地域住民との関わりです。普段から、地域の住民と関わりをもって信頼関係を築いておけば、万が一「なにかがあったとき」に駆けつけ、力になってくれます。
 避難訓練なども、できれば事業所だけでなく、地域の住民にも協力してもらうことで、より安心できるシステムを構築することができるのではないでしょうか。
 そして、住民も地域の高齢者を支えていく気持ちをもつことが大切だと思います。

 「お金で買えないものはない」とある人は豪語しました。
 己の利益への追求がエスカレートして発覚したのが、昨今、報道されている耐震強度偽装、ライブドアの前幹部に関する一連の容疑です。
 地域の高齢者を支えることはお金にはならないことかもしれません。しかし、人を支えることで、支えた人のもとにはいつかなにかの形となって戻ってくると私は思います。
 「この世知辛い世の中で甘ったれたことを」というご指摘があるかもしれません。けれど、この7年間、介護報酬をもらうこともなく、休むことなく家族の介護を続けてきた私は、「お金で買えないものはある」と実感しながら、今日もまた介護に臨んでいます。

プロフィール
小山さん写真 小山朝子(こやまあさこ)

ジャーナリスト。東京都目黒区生まれ。
高齢者の医療、介護をテーマに執筆を行う。
祖母を約9年にわたって介護した経験から、
一当事者として発言する機会も多い。
現在は全国各地での講演活動に力を入れ、
新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどでのコメンテーターもつとめる。

「朝子の介護奮戦記」、「イラスト図解アイデア介護」(全5巻)、「ケアマネジャー 必須書類の書き方  完璧マニュアル」ほか著書多数。
出演番組は、NHK「福祉ネットワーク」、ニッポン放送「ラジオケアノート」など。

財団法人日本訪問看護振興財団 「在宅ケア・訪問看護エッセイ」
最優秀賞受賞(2006年)
高齢者アクティビティ開発センター 講師・評議員
東京大学医療政策人材養成講座 第4期生

小山朝子の公式サイト

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