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特集
スペシャル対談
映画の中の介護
vol.1松井久子監督
vol.2槙坪夛鶴子監督

ふくしチャンネルレポート

スペシャル対談 映画のなかの介護2
ここ数年、「介護」や「痴呆」など私たちの身近な問題を扱った映画が話題を集めています。
描かれているテーマは介護や痴呆にとどまらず、「生き方」や「老い方」「家族の絆」など考えさせられることばかり。
そこで今回、ふくしチャンネルでコラムを執筆中の小山朝子さんに、映画監督と語り合っていただきました。第2回目は『老親 ろうしん』『母のいる場所』の槙坪夛鶴子監督です。
 
槙坪監督プロフィール 槙坪夛鶴子
1940年生まれ。 早稲田大学演劇科卒業後、映画・テレビに18年間スクリプター(記録係)として参加。45歳の時に企画制作パオを設立し、翌86年、「子どもたちへ」で映画監督デビューを果たす。2001年、5作目となる「老親」にて、山路ふみ子映画賞福祉賞、日本カトリック映画賞、藤本賞特別賞を受賞。現在、2003年に公開した「母のいる場所」が全国各地で上映中。

小山朝子
1972年生まれ。95年ライターとして独立するも、99年にクモ膜下出血で倒れた祖母の介護に専念するためセミリタイア。2001年、在宅介護を続けながら執筆を再開。現在、新進気鋭の介護ライター、介護ジャーナリストとして注目を集め、高齢者介護の分野を中心に雑誌等で連載多数。著書「朝子の介護奮戦記」、ドキュメンタリービデオ「笑顔が見たくて〜わが家の介護〜」が好評発売中。
小山さんプロフィール
介護者にしてほしい心の柔軟体操

小山 「車いすの監督」としてメガホンをとりながら、痴呆症のお母様を介護されているんですよね。現在、上映会や講演会で全国各地を飛び回っていらっしゃるそうですが、お母様もいつも一緒だと伺いました。
槙坪 母は私の姿が見えないとすごく不安になるの。だから、いつも連れ歩いているんです。
私も、ときどき危ないことがあるんだけどね。私ってわかってるのかな?って。それでも、「娘の夛鶴子」という関係は、私たちをつなぐ唯一のパイプなの。
少し前にね、母が事務所のあるマンションの階段で転んでしまって、右の大腿骨頚部を骨折してしまったんです。もう目が離せない。いつも一緒にいるのは、お互いの安心のためでもあります。

小山 仕事と介護の両立をお一人でされるのは、とても大変だと思います。
槙坪 槙坪監督1私の場合、選択する余地がなかった。
『老親 ろうしん』にあるようにね、大阪に住んでいる母と義理の父を東京に連れてこようと準備したんです。でも、土壇場で義理の父が東京は怖い、死ぬんだったら大阪で死にたい、と言い出して諦めざるを得なかった。その辺りから、母の痴呆が始まりました。
義理の父が倒れた時、『わたしがSuKi』と『老親』の2作を同時に作っていたんです。『わたしがSuKi』は援助交際をテーマにした映画で、完成前から上映が決まった所もあって、2年間で全国500ヶ所ほどの上映会があり、そのうち300ヶ所に行きました。
その講演と『老親』の制作準備の合間をぬって、義理の父を老人保健施設へ送り、母を引き取ることになったんです。それも「この日のこの時間しか行けない」という中でね。考える余裕はまったくありませんでした。

小山 介護サービスは何を利用されていますか?
槙坪 母と暮らして5年経ちましたが、現在は訪問介護とデイサービスです。
でも、ヘルパーさんだけでは補えないんですよね。頼めることと頼めないことがあるから……正直言って面倒くさいし、ストレスがたまります。
小山 小山さん1ヘルパーの仕事は、どこからどこまでというラインが決まっていますからね。例えば、見守りはできないとか、本人の使う部分しか拭き掃除はできないとか。家族にとって「かゆいところに手が届く」サービスではありません。
槙坪 私はぞうきん絞れないのにね。
職業として成り立たないのかもしれないけど、境界線を越えてSOSに柔軟に答えてくれるような人が必要だと思います。家族が家族としての良さを発揮するためには、いろいろな助けが必要なんです。ヘルパーなんだけどヘルパーだけじゃないプラスαをもった人を、地域に何人作れるかが大切だと思うの。
小山 私の祖母は医療行為がありますので、私か母が家にいなければならないんですが、プラスαをもった人は必要だと思います。介護サービスって便利になったようで、実は節穴があるんですよね。来る人によってストレスになったり、関わり方など難しい問題がいっぱいあります。

槙坪 小山さんの本とビデオを見させてもらったけど、おばあちゃんに対する尊敬と愛情をすごく感じました。私自身、退院強行して弱った経験がありますけど、よく自宅に引き取られたなって思う。
小山 病院だと、なんだか人質にとられているようで。やっぱり手厚い介護は家族以外にはできないのではないかと思ったんです。
槙坪 家族に見られているという意識で、病院関係者の対応が変わったりしますからね。
小山 小山さん2そうなんです。家族が熱心だと、「この人はすごく家で尊敬されている人なんだ」と見られるというか。私にできることはそれくらいしかありません。
槙坪 おばあちゃんがうらやましいな。娘がいればいいなって思ったわ(笑)。
小山 お子さんは?
槙坪 息子がいます。彼が映画音楽の作曲とパンフレットなどを作っているんですよ。
娘がいるとやっぱり助かるなって思うのはお風呂ね。上映会や講演会を回っていると、1週間くらいホテル暮らしでしょ。母が骨折してから、力のない私では支えられなくてお風呂に入れられないのよ。

理想の「居場所」は自分たちでつくれる

小山 『老親』では、長男の嫁、専業主婦というだけで末期ガンの実父、脳溢血の姑、残された舅、骨粗鬆症の実母、4人の介護を主人公が1人で背負うことになります。一方の『母のいる場所』では、7年間実母の在宅介護を続けてきた主人公が、ユニークな有料老人ホームに出会い、父と対立しながら入所を選択します。
在宅と施設、全然違うものだと思いますが、監督ご自身の介護のあり方が移行したということがあったんでしょうか?
槙坪
老親イメージ
映画『老親』
『老親』を撮ろうと思ったきっかけは、私自身、関節リウマチで車いすの生活になっていましたから、親の介護をどうしようかと考えていた時に、門野さんの原作を偶然読んだことなんです。ちょうど母たちを東京へ連れてこようと計画していたので、これは他人事ではないなと、映画化するなら私しかいないって思ったの。
女性は結婚すると4人の親をもつことになります。でも、男性は2人のまま。嫁であったり、妻であったり、娘であったり、女性が介護を担うのが当然という考えなんですよね。
私の場合、ひとりっ子ですから、母が自分で自分のことができなくなったら、もう手に負えない。着替えさせることもできないし、ヘルパーさんを頼むにも限度がありますから、施設のことを考えざるを得ない。どういう施設だったら安心して入れられるんだろうか、と考えていた時に久田さんの原作に出会ったの。
小山 それで『母のいる場所』を撮ろうと思われたんですね。
槙坪
母のいる場所イメージ
映画『母のいる場所』
実は、有料老人ホームが舞台になっているので、かなり迷ったんですよ。だってね、有料老人ホームは金銭的に恵まれた人が入れるわけじゃない? そうではない人はどうすればいいのか。どういう施設を選べばいいのか。
今まで、理想的な施設の基準がなかったと思うんです。原作に出てくる有料老人ホームは、見た方みんなが「こういう施設に入りたい」「近くにあればいいのに」と言います。
それならね、自分たちで作ればいいのではないでしょうか。施設だけにとらわれないで、地域の中で自分にできることを工夫して、お互いに助け合えるようなネットワークを作っていけばいいと思うんです。『母のいる場所』がそのきっかけになれば……。

小山 原作の施設は、練馬にある「シルバーヴィラ向山」ですよね。私も取材に行ったことがあるんですよ。
槙坪 あら、そうなの。全室個室だし、NOを言わない。お酒もタバコも恋愛も出入りも自由。働いているスタッフもみんな楽しそうなのよね。お世話してあげているという意識がなくて、お互いに一緒に生きているというような雰囲気があります。
小山 個性の強い俳優さんをキャスティングされていると思います。
小林桂樹さんは『母のいる場所』にも出演されてて、厳格な役とだらしない役、正反対の人物を見事に演じ分けられていました。
槙坪 小林さんは、『老親』が終わった時に、私の作品だったらどんな役でも出るからって仰ってくれたんです。それほど信頼してくださったのは、とてもありがたいですね。苦手な鼓や踊りも嫌な顔もされないで、演じてくださいました。

誰もが主人公。介護が綴る共生のストーリー

小山 2作とも、ところどころ笑えるシーンがあり、観終わった後はなんだか元気になりました。
槙坪 そうなんですよ。さらにね、みなさん上映会で母と私の姿を見て、もっと元気づけられたっておっしゃるんです。母もお客さんの前では元気に輝いてますし。
娘の世話をしているという意識をもっていますから、「お母さんお仕事です。よろしくお願いします」と言うと、家ではボーッとしてても、ピッ!となって車いすを押してくれるんです(笑)。相手の力になりたいという気持ちがあり、対等で必要な関係になれた時、お互いが輝きを取り戻せるんですよね。
母に会いたかったという方も多くて、「お互いにがんばりましょうね!」と握手している場面を何度も見ると、あぁ母は置いていけないわって思うの。
小山 監督のお母様にとっての「いる場所」なのかもしれませんね。
槙坪 槙坪監督2少しでも母の力を残せるように「役に立ってる。必要な存在なんだ」と自信のもてる関係をつくらなくてはならないと思っています。なかなかね、1対1だとそういう関係ってできにくいんですよ。
だから、私のやれることは、母が不安になったら大丈夫よと声をかけることと、危険のないようにいつも一緒にいることだけ。
昨日もね、○○ちゃんを1人で帰したから、心配で寝れないと言い出したので、気持ちを変えようと牛乳を勧めたんです。飲み終わったら「ありがとう。お世話になりました」って忘れてくれた(笑)。「安心して寝てね」と声をかけたら、すぐ寝たのでホッとしました。

小山 監督は人生における困難をいくつも乗り越えてこられたと思います。人生を切り開いていくコツとは?
槙坪 そうね、あまり先を考えていなくて(笑)。今どうするかっていう優先順位だけを考えています。
これまで何回も入退院を繰り返して、いつ死んでもおかしくないって言われたことがあるんですよ。実は、今もいつ発作で倒れるかわからない状態なの。24時間寝ても覚めても、薬を飲んでも痛いし。
でも、生きるなら自分のやりたいことをやろうって思って。そのために、やりたいことを可能にするにはどうすればいいかということだけを考えてる。目標を決めて好きなことに打ち込んでいる時間は、痛みを少し忘れられるんですよ。人間って不思議ね。

小山 今後、監督がめざす目標、テーマは何ですか?
槙坪 今はピンとこないんです。今までの作品は「共に生きる」というテーマで人間ドラマを描いてきましたが、これは介護だけのテーマではありません。
介護って、その人の人生すべてを問われるわけじゃないですか。親子関係、夫婦関係、兄弟関係、どういう生い立ちだったかなどを見つめ直す機会になる。
私は死ぬことも生きることに通ずると考えています。死ぬということを否定的にとっていないんですよ。死ぬときにこの人と関われてよかったと感謝して死にたいし、見送りたいし、生きていきたい。みんないつかは死にますからね。早いか遅いかで。
そういうわけで、私の映画は誰かが死んじゃうんですが、暗いだけの映画は作りたくないの。希望が持てる映画を作りたいし、これまでも前向きに生きれるような映画を作ってきましたから。

小山 監督の介護観をいろいろ伺ってきましたが、ズバリ監督にとっての「介護」とは。
槙坪 お世話をしてあげているのではなくて、共に生きている中で困っていることをフォローするということが「介護」といえるでしょう。
介護する方もされる方も対等な関係になって、みんながイキイキ楽しめるような生き方であれば、介護される方も笑顔が出るわけだし、介護する方も笑顔を取り戻せるんじゃないか、と思います
いろいろな家族があって、家族の数だけ介護の物語があっていいと思いますが、これからの介護のあり方は、家族だけに孤立させないように公的な支援も含めて、みんなで助け合って共に生きる関係をつくることが大事だと、私は思っています。
 
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各地上映会のお問合せは下記まで。
企画制作パオ
TEL:03-3327-3150
HP:http://www.pao-jp.com/
映画『母のいる場所』
のワンシーン
『老親』
のワンシーン
 

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