訪問看護師にも望まれる高い専門性
日本看護協会では、「認定看護師」の認定制度を設けています。認定看護師は、ある特定の看護分野において、熟練した看護技術と知識を用いて水準の高い看護を実践し、ケアの質の向上を図ることに貢献します。2007年8月現在、「救急看護」、「皮膚・排泄ケア」、「緩和ケア」、「感染管理」、「摂食・嚥下障害看護」、「認知症看護」などの17の分野があり、その活動が診察報酬などでも評価され始めています。
しかし、医療ニーズが高い高齢者も在宅で生活することが見込まれるこれからは、病棟だけでなく、在宅の現場で働く訪問看護師にも高い専門性が求められるのではないでしょうか。
各訪問看護ステーションのなかには、例えば褥瘡(体の一部分が長時間圧迫されることにより、その部分に血液や栄養が届かなくなり、皮膚やその下にある組織が死んでしまう状態)のケアに詳しい看護師がいたり、在宅での看取りの実績が多いところなど、それぞれ特色があります。各々の訪問看護ステーションで独自にホームページを作成しているところなどは、ホームページのなかで各ステーションや看護師の特色について触れている場合もありますが、一般にはその情報が不十分です。
「介護サービス情報の公表制度」ではわからない事業所の「得意領域」
現在、訪問看護ステーションの情報について参考になるのが、昨年改正された介護保険法で義務化された「介護サービス情報の公表制度」です。
しかし、例えば、介護サービス情報の基本情報における「訪問看護」の情報をみると、「特別な医療処置等を必要とする利用者の受け入れ状況」について、「経管栄養法(胃ろうを含む)」、「中心静脈栄養法(IVH)」、「点滴・静脈注射」、「胃ろう・膀胱ろう」といった項目が挙げられてはいるものの、それについて「あり」「なし」という回答のみしか開示されていません。それに対応できる看護師が何人いるか、また、その実績数などはわからず、まして各々のステーションの特色、得意領域なども見えにくいと感じます。
在宅の現場でも活きる呼吸療法のスキル
前回の療養通所介護の取材において、呼吸療法の技術を身につけることにより、痰の吸引の際、患者の身体的な負担が軽減できると聞き、3学会(日本胸部外科学会、日本呼吸器学会、日本麻酔科学会)合同呼吸療法認定士(以下、呼吸療法認定士)の資格をもった訪問看護師を取材したいと考えました。
近年、患者の高齢化が進み、医療ニーズの高い高齢者が増加しています。呼吸療法は、医療ニーズが高い人の管理のなかでも大きな柱であり、吸入療法、酸素療法、呼吸理学療法などは広く普及が望まれています。しかし、医療の現場では呼吸療法に精通した関係者が少ない実情があります。呼吸療法認定士は、臨床工学技士、看護師、准看護師、理学療法士のなかで、それぞれの職種において呼吸療法に習熟し、そのレベルを向上させることなどを目的として、学会が認定するものです。
医療ニーズが高い人が安心して生活するには、在宅の現場にもこのような専門的な知識と技術を学んだエキスパートがもっと増えて欲しいと感じます。
取材にあたって、呼吸療法認定士の資格をもった訪問看護師がいるステーションをリサーチしましたがなかなか見つからず、ようやくそのホームページに「呼吸療法認定士の資格を持った看護師も訪問しています」と書かれた訪問看護ステーションが見つかりました。 それが東京都町田市にある訪問看護ステーション「鶴川ひまわり」です。
東京都町田市にある訪問看護ステーション「鶴川ひまわり」は地域に根ざした医療を行う三輪診療所内にあります。
同ステーションでは、医療ニーズの高い利用者を多く受け入れ、24時間連絡体制により緊急時の対応も可能です。常勤3名、非常勤2名の看護師が活躍しています
同ステーションで呼吸療法認定士の資格をもつのは看護師、ケアマネジャーで同ステーションの所長である坂本由恵さん。坂本さんは、9年前、神経難病に関する研修会に参加した際に呼吸療法認定士のことを知りました。働きながらテキストを読んだり、問題集で勉強するなどして試験に合格したといいます。
看護師、ケアマネジャーで同ステーションの所長である坂本由恵さんは、呼吸療法認定士の資格を9年前に取得しました。かつては一般企業のOLとして働いていた経歴をもつ坂本さんですが、そのときの経験がステーションのマネジメントを行ううえで役に立っているといいます
現在、「鶴川ひまわり」の利用者は約80名ですが、入院や施設の利用をする人もいるため、1カ月の利用者数は約60名。そのうち3〜4人の利用者が人工呼吸器(自発呼吸のできない人の肺に空気を送り込む機器)を使用しています。
そのほか、気管切開(気管内に管を入れて換気を行う)や在宅酸素療法(肺機能の低下によって継続して酸素の補給が必要な人が在宅で酸素吸入を行う)が必要な利用者もおり、坂本さんが呼吸療法認定士のスキルを活かし、訪問看護を行っているケースもあります。
坂本さんが利用者宅で呼吸療法を行っている現場を取材しました。
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