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介護ジャーナリスト小山朝子の新介護論
連載/第三回 市民講座レポート(2)
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介護ジャーナリスト小山朝子の新介護論「介護疲れ」は真実か――〜40代男性による実母殺害事件をめぐって〜【続編】
介護保険制度が改正され、2006年4月から全面施行されました。
介護を社会で支えるという基盤は整ったものの、制度ではカバーできない問題も少なくなく、介護サービスの利用者や家族のニーズが汲み取られていない実情も感じます。
行政、介護を担う家族、在宅・医療機関・施設の現場で働く関係者、そして地域の住民やボランティアなどのインフォーマルな力が、ひとつの輪となって介護を支える社会をつくるために――。
このコーナーでは、「これからの介護」をみなさんとともに考えていきたいと思います。
シリーズ:介護事件の現場を歩く近年、高齢者の介護にまつわる事件報道を目にする機会が増えました。しかし、新聞やテレビで一般の人に伝えられる報道はその大略で、事件が起きた背景や事件に関わった人物に対して詳しく報じられません。「介護」「高齢者」という言葉のもつイメージによって、その事件の背景を察する人もいるでしょう。
しかし、報道されていない事実を知ることで、その事件を別の角度から考えることができます。
このシリーズでは、数々の介護事件の現場を取材し続けているジャーナリスト、小山朝子が事件報道の「さらに向こう側」にある事実を独自の視点で検証します。
〜この記事はvol.4【前編】vol.5【後編】の判決についてです〜
懲役10年の判決に控訴を決めた被告

 同居していた母親を殺害し、殺人の罪に問われた川部幸美被告に対し、東京地裁は、平成18年6月9日、懲役10年の判決を言い渡しました。
 この判決に対して、川部被告の弁護を担当した湯澤功栄弁護士は、「厳しい判決だと思います」とコメントしています。


 2回目の公判の際、弁護側は苦しむ母親が「殺してくれ」と息子に頼んだとして嘱託殺人罪を主張しましたが、判決を言い渡す際、毛利晴光裁判長は、「殺してくれ」との母親との言葉は真意に基づくものではなくうわ言だとし、このとき母親は嘱託できる状態ではなかったと指摘しました。
 川部被告は母親を殺害する際、タオルで頸部を巻きつけて絞め、さらにタオルの残部を口腔内に詰め、鼻腔部を閉鎖するなどして三度にわたってその行為を行ったといいます。
 「判決では、この行為を強固な意志をもって冷徹に行ったと判断されましたが、川部さんは引きつけをおこして苦しんでいた母親に楽になってほしいという思いからこのような行為に及んだと話しています。このような思いが汲み取られなかったのは残念です」と、湯澤弁護士は述べています。
 母親に対する想いが人一倍強かった川部被告は、事件後、自分を責めて投げやりな態度だったといいますが、湯澤弁護士との接見を通して、少しずつ冷静になってきたといいます。
 川部被告は判決を不服とし、控訴を決めています。

 前編でも書いたとおり、川部被告は平成17年1月に10年以上勤めていたパチンコ店を解雇され、その後、職探しもあきらめ万引きなどをして食料を得ていました。さらに多額の借金もあったことから、平成17年11月には電気やガスの供給がとめられ、ろうそくの灯りで生活していました。
 もし、川部被告が貧困に苦しんでいなければ、このような事件は起きなかったかもしれません。少なくとも、母親が体調不良で倒れたときに、家賃を滞納しているために居留守をし、それがばれてしまうからという理由で救急車を呼ばないということはしなかったのではないでしょうか。

 公判中に川部被告本人が述べたとおり、「なりふりかまわずに」職探しをすれば万引きをしなくても生活することができたでしょう。湯澤弁護士は「今回の事件はたしかに、被告自身の問題に拠るところが大きいと思います。しかし、制度や人など頼るところがあれば事件を防げた可能性もあったのでは」と話しています。
 湯澤弁護士によると、川部被告は生活保護の申請をしようと思ったこともあったそうです。しかし、手続きがよくわからなかったという理由で、結局申請をしなかったといいます。
 母親のツユコさんは殺害された当時71歳でしたから、介護保険証も自宅に届けられていたはずです。
 「川部さんは生活保護についてもよくわからず、まして介護保険制度についての知識もなかったのではないでしょうか」と湯澤弁護士は話しています。
人生のラストステージで浮き彫りにされる階層格差

 昨今、「下流社会」という言葉が聞かれ、階層格差の広がりが指摘されています。
 「下流社会」は、ニートなど若者を中心に語られている感がありますが、今回の事件をはじめ、多くの介護現場を取材していると、人生のラストステージにおける諸問題においても、階層格差について考えさせることがしばしばあります。
 豊かな老い、という価値観は人それぞれですが、施設や病院の選択や介護サービスの利用などにおいても、所得や教育レベルの問題が多かれ少なかれ影響しているように感じることがあるのです。
 ちなみに、『家族介護者のサポート カナダにみる専門職と家族の協働』(パム・オルゼック、ナンシー・ガバマン、ルーシー・バリラック著 高橋流里子監訳 筒井書房)によると、「低所得層の介護者はサービスは利用できないという“認識または理解”が極めて強い事実がサービス利用を妨げる大きな要因の一つになっている可能性が高いことが、NAC(全米介護者連盟 the National Alliance for Caregiving)の調査から証明された」と記述されています。
 しかし、自ら祖母の介護をしている当事者として、さらに介護の現場を取材しているなかで私が感じていることは、とくに人生のラストステージにおける豊かさは、必ずしも所得や教育レベルに結びつくものではないのではないかということです。
 家族や地域、周囲の人との温かな関わりや自分自身の生きがいをもつことで、豊かな生活を送っている方も少なくないのではないでしょうか。

 介護保険制度が始まって5年、今年4月から制度の改正が全面施行され、新たなサービス内容や介護報酬の問題点も報じられています。ジャーナリストとして私自身も、行政関係者や病院・施設、さらに在宅など現場の取材を通してこのような情報を伝える立場にいるわけです。
 しかし、現実には、親や自分の心身状態、さらに経済的なことなどの不安をかかえながらも、介護保険制度を活用するどころか、まったく制度に関する知識をもたず、毎日生活することに精一杯だという人もいるのです。
 私達のような情報を伝える側はもちろん、行政関係者や介護に携わる職に就いている人は、こうした現実にも目を向ける必要があるように感じました。

 各自治体のなかには、独居の高齢者や高齢者世帯などについて実態把握に力を入れているところもあります。
 しかし、昨今、息子が母親を殺害する事件が起きているように、これからは、その実態把握のありかたや、介護する家族の個々の問題にも目を向けていく必要があり、それには個人情報保護法との関わり、縦割りの行政のありかたも課題となるでしょう。

 この事件からあなたはどんなことを考えますか?

プロフィール
小山さん写真 小山朝子(こやまあさこ)

ジャーナリスト。東京都目黒区生まれ。
高齢者の医療、介護をテーマに執筆を行う。
祖母を約9年にわたって介護した経験から、
一当事者として発言する機会も多い。
現在は全国各地での講演活動に力を入れ、
新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどでのコメンテーターもつとめる。

「朝子の介護奮戦記」、「イラスト図解アイデア介護」(全5巻)、「ケアマネジャー 必須書類の書き方  完璧マニュアル」ほか著書多数。
出演番組は、NHK「福祉ネットワーク」、ニッポン放送「ラジオケアノート」など。

財団法人日本訪問看護振興財団 「在宅ケア・訪問看護エッセイ」
最優秀賞受賞(2006年)
高齢者アクティビティ開発センター 講師・評議員
東京大学医療政策人材養成講座 第4期生

小山朝子の公式サイト

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